別所実正作 稲穂に蜻蛉兜
「美は、線に宿る。」
この甲冑師の作品を前にして、そう感じました。大胆でありながら繊細。伸びやかな鍬形の曲線は、空間に余白を描き、見る者の視線を導きます。
洗練された設計と、計算された均衡。重厚でありながら軽やか。装うというより、彫刻のように佇む兜です。
黄金色に実る稲穂。
五穀豊穣を象徴するその姿を、兜という武の造形に昇華させた意欲作です。
彫金の技を尽くし、随所に施された稲穂の意匠。その間をすり抜けるように配された蜻蛉は、古来「勝虫」とも呼ばれ、前へ前へと退かぬ勇を象徴してきました。
豊穣への願いと、勝利への祈り。二つの意味が、繊細な装飾の中に静かに息づいています。
稲穂にとまる蜻蛉の姿は、どこか懐かしい里山の風景を想わせます。風に揺れる田、夕暮れの水面、澄んだ空気。日本人の心の奥にある原風景が、物語としてこの兜に宿ります。
重厚でありながら、どこかあたたかい。力強さの中に、実りのやさしさを含んだ造形です。
背後の屛風には、石目調の越前和紙。無駄を削ぎ落としたその静かな表情が、意匠の豊かさをいっそう引き立てます。洗練と素朴が調和する空間構成です。
武を象徴する兜に、豊穣と原風景の物語を重ねた一領。
祈りと郷愁が、美しく結晶しています。
※手づくりのため柄行や色調などが画像とは異なる場合がございます。
※屛風や飾り台など装飾品を含めた価格になります。
寸法:間口38㎝×奥行33㎝×高さ35.5㎝